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2025.08.18
特集
日本遺産巡り#45◆小樽から始める、北前船がもたらした功績をたどる旅
江戸時代から明治時代にかけて、北海道と関西方面を、主に日本海・瀬戸内海航路で結び、人・モノ・文化を運んだ北前船とその船主たちは、地域の発展はもちろん日本の近代化にも大きく寄与しました。このストーリーは、「荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間 ~北前船寄港地・船主集落~」として日本遺産に認定されています。
日本遺産の中でも最広域にわたる北前船の物語。数ある北前船ゆかりの都市の中から今回は北海道小樽市にスポットを当て、北前船が各地にもたらした繁栄の軌跡をたどりました。
現地をご案内いただいたのは、小樽商科大学客員研究員、北前船研究活用ネットワーク代表の高野宏康さん。
はじめに、当時の北前船の役割について伺いました。
高野さん:北海道と関西方面を主に日本海・瀬戸内海航路で結ぶ、重要な役割を果たしていました。北海道の特産品を全国へ、復路では各地の特産品を北海道に運び、「地域ごとの価格差」を利用して大きく儲けました。「一攫千金のロマン」もありましたが、遭難すればすべて失ってしまうハイリスクハイリターンの側面もありました。それだけの危険を冒しながら、全国各地にさまざまな物資を運び、各地で文化を作っていったんです。
はじめに、当時の北前船の役割について伺いました。
高野さん:北海道と関西方面を主に日本海・瀬戸内海航路で結ぶ、重要な役割を果たしていました。北海道の特産品を全国へ、復路では各地の特産品を北海道に運び、「地域ごとの価格差」を利用して大きく儲けました。「一攫千金のロマン」もありましたが、遭難すればすべて失ってしまうハイリスクハイリターンの側面もありました。それだけの危険を冒しながら、全国各地にさまざまな物資を運び、各地で文化を作っていったんです。
北前船がなければ日本の「出汁文化」は生まれていなかった?
私たちの日常生活において身近な「出汁」も、北前船と深い関係にあると言います。
高野さん:昆布は北海道の特産物です。それを船主たちは富山や京都、大阪などにもたらし、さらに中継貿易により、沖縄、東アジアにまでもたらされました。日本の「出汁」は、北前船の存在があったからこそ、文化として定着したと言えるでしょう。はじめに、小樽で有名な昆布専門店に行ってみましょう。
高野さん:昆布は北海道の特産物です。それを船主たちは富山や京都、大阪などにもたらし、さらに中継貿易により、沖縄、東アジアにまでもたらされました。日本の「出汁」は、北前船の存在があったからこそ、文化として定着したと言えるでしょう。はじめに、小樽で有名な昆布専門店に行ってみましょう。
高野さんが案内してくれたのが、小樽堺町通り商店街にある昆布専門店「利尻屋みのや」。社長の簑谷和臣さんに、お店のルーツ、日本で出汁文化が発展した理由について伺いました。
簑谷さん:利尻屋みのやは、平成3年創業の昆布専門店です。ルーツは北海道の利尻にあります。私の曽祖父、祖父は利尻島で昆布漁師をしていました。昆布漁師は一子相伝で、父は6番目の子供だったことから、小樽に出てサラリーマンとして勤務した後、利尻屋みのやを創業しました。実は、日本で昆布は北海道と東北の一部地域でしか獲れません。しかも、95%以上が北海道産なんです。昆布は日本中で使われる味のベースになっていますが、それをもたらしたのが北前船の存在でした。
簑谷さん:人間の体で「これは食べられるもの、食べられないもの」を判断するのは舌です。甘味、塩味、酸味、苦味に加え、第五の味覚として「うま味(アミノ酸)」があります。肉をそれほど摂らなかった日本人は、古くからアミノ酸を選んで摂取する必要があったんです。だからこそ、舌の「味蕾(みらい)」と呼ばれる部分の感覚が鋭くなり、「うま味」を感じ取りやすくなったとも言われます。
簑谷さん:北前船は長い航路を渡って来るため、1人の人が訪れるのは1年に1〜2回程度でした。そのため、小樽には船で運んだものを保存する倉庫がたくさん残っています。実は、このお店も元は石蔵でした。小樽の異国情緒ある石造りの建物にも、ぜひ注目していただきたいですね。
季節により異なりますが、店内には60〜70種類の商品が並び、他では手に入らない貴重な昆布も販売されています。料理ごとに最適な昆布をアドバイスもしてもらえるので、北前船の軌跡を辿りながらぜひ立ち寄ってみてください。
【利尻屋みのや】
季節により異なりますが、店内には60〜70種類の商品が並び、他では手に入らない貴重な昆布も販売されています。料理ごとに最適な昆布をアドバイスもしてもらえるので、北前船の軌跡を辿りながらぜひ立ち寄ってみてください。
【利尻屋みのや】
| 所在地 | 北海道小樽市堺町1-20 |
|---|---|
| アクセス | JR小樽駅から徒歩約15分 |
| 営業時間 | 9:00~18:00 |
| 定休日 | 年中無休 |
高野さん:福井県敦賀市と秋田県秋田市では「昆布の手すき加工技術」が日本遺産の構成文化財になっていて、「昆布削り体験」ができる場所もあります。また、昆布は近年、美容の面からも注目を集めているんです。函館市では、「昆布テラピー(エステ)」や「昆布風呂」もありますし、美容液や化粧品にも昆布が使われ始めています。北前船から続く昆布の文化が、現代版にアップデートされていますね。
小樽名物「ニシンの串焼き」「ニシンの刺身」と全国の食文化とのつながり
北海道で有名な魚「ニシン」も、北前船を理解する上では欠かせない要素です。
高野さん:当時、北海道で獲れたニシンはそのまま食べることはあまりなく、「魚肥(ぎょひ)」に加工され、北前船で西日本に運んでいました。綿花栽培の肥料として使われ、帰りには綿花を北海道に運ぶ。それが、北前船の帆や衣類となる循環型のサイクルがあったんです。小樽には、本州ではあまり食べられていない「ニシンの刺身」が美味しく食べられるお店がたくさんありますよ。
高野さん:当時、北海道で獲れたニシンはそのまま食べることはあまりなく、「魚肥(ぎょひ)」に加工され、北前船で西日本に運んでいました。綿花栽培の肥料として使われ、帰りには綿花を北海道に運ぶ。それが、北前船の帆や衣類となる循環型のサイクルがあったんです。小樽には、本州ではあまり食べられていない「ニシンの刺身」が美味しく食べられるお店がたくさんありますよ。
案内してもらったのは、かつてニシン漁で賑わった小樽市祝津地区で民宿も営む青塚食堂。ここでは、ニシンの刺身や串で焼いた特大サイズのニシンを提供しています。
高野さん:ニシンは「春告魚」とも言われる通り、春が旬です。ぜひ、その時期にも食べていただきたいですね。京都でも「ニシン蕎麦」が有名ですが、それも北海道由来、北前船の存在があったからと言われています。北前船が日本全国の食文化に影響を与えていたことがわかりますね。
旧北浜地区倉庫群には今も「北前船魂」が宿る
続いて訪れたのは、構成文化財である旧北浜地区倉庫群。
ここは、かつて北前船の船主たちが運んだ物品を保管し、取引する営業倉庫として利用されていました。
ここは、かつて北前船の船主たちが運んだ物品を保管し、取引する営業倉庫として利用されていました。
小樽市総合博物館運河館で北前船の「帆」に触れる
明治26年に建てられた「旧小樽倉庫」を活用している小樽市総合博物館運河館。
ここでは、北前船に関する展示を常時行っており、実際に使われていた“帆”を手に取って触れることができます。
ここでは、北前船に関する展示を常時行っており、実際に使われていた“帆”を手に取って触れることができます。
高野さん:かつてこのエリアは海だったんですが、明治時代中期に埋め立てて倉庫が作られました。この博物館も昔の倉庫で、北前船の船主によって建てられました。現存する帆は全国的にも貴重で、ここでは上から吊るして展示をしています。このような展示をしていること、そして実際に帆に触れることができるのは全国的にも小樽市総合博物館だけでしょう。他にも北前船に関する貴重な写真や資料なども展示されているので、ぜひご覧になってみてください。
【小樽市総合博物館運河館】
【小樽市総合博物館運河館】
| 所在地 | 北海道小樽市色内2丁目1番20号 |
|---|---|
| アクセス | JR小樽駅から徒歩10分 |
| 定休日 | 年末年始(12月29日~1月3日) |
| 営業時間 | 9:30〜17:00 |
先人の志が現代に息づくセレクトショップ「小樽百貨UNGAPLUS」
小樽市総合博物館運河館の隣にある「小樽百貨UNGAPLUS(ウンガプラス)」は、北前船の魂を現代に伝えるお店。北前船をモチーフとしたハイクオリティな雑貨や食品に加え、全国の北前船寄港地の商品も販売しています。
小樽百貨UNGAPLUSプロデューサー白鳥陽子さんに、倉庫街や運河と北前船のつながり、今に残したい精神などについてお話を伺いました。
小樽百貨UNGAPLUSプロデューサー白鳥陽子さんに、倉庫街や運河と北前船のつながり、今に残したい精神などについてお話を伺いました。
白鳥さん:ここは、130年前に北前船主が建てた建物です。歴史的な建造物の中に「小樽らしさ」を集めたいと、このお店をオープンさせました。「小樽と言えば運河」とイメージする方も多いと思いますが、「なぜ運河ができたのか」を考えると、北前船の存在に行き着きます。つまり、北前船は小樽の発展に欠かせない“宝船”のような存在だったんです。
白鳥さん:隣にある小樽市総合博物館のミュージアムショップのような要素も取り入れて、「小樽瓦焼バウム」や「旧小樽倉庫譚」といった、北前船の歴史を伝える商品も作りました。私たちは、北前船の精神を引き継いで商社的な要素に重きを置きながらも、地域をどうデザインしていくかに取り組んでいます。船主たちは北前船がなくなってからも、違う事業に取り組んできました。時代を見ながら、次の手を打っていった船主たちからも影響を受けていますし、彼らの存在をとても誇らしく思っています。
白鳥さん:店内には航路図を描いていたり、サイトには小樽市総合博物館の館長のコラムを掲載したりと、さまざまな仕掛けをしています。ぜひゆっくりと見ていただきながら、まずは自由に「素敵だな」「かわいいな」と思っていただきたいですね。そこから、歴史にも思いを馳せていただければと思います。
【小樽百貨UNGAPLUS(ウンガプラス)】
【小樽百貨UNGAPLUS(ウンガプラス)】
| 所在地 | 北海道小樽市色内2丁目1番20号 |
|---|---|
| アクセス | JR小樽駅から徒歩10分 |
| 定休日 | 年末年始休。事前にご確認ください。 |
| 営業時間 | 10:00~18:00 |
命がけの航海に臨む船主たちの心の拠り所
次に訪れたのは、文久2年(1862年)に開創された曹洞宗徳源寺。危険と隣り合わせの航海をしてきた船主たちは、全国各地の寺社仏閣で航海の安全を祈願し、無事に航海を終えた感謝として、さまざまな奉納を行いました。
徳源寺では、北前船の船主や船乗りが奉納した「船絵馬(ふなえま)」を見ることができます。徳源寺の吉田敬徳住職に、お寺の歴史と当時の船主たちの思いについて伺いました。
徳源寺では、北前船の船主や船乗りが奉納した「船絵馬(ふなえま)」を見ることができます。徳源寺の吉田敬徳住職に、お寺の歴史と当時の船主たちの思いについて伺いました。
吉田さん:徳源寺は、江戸時代の文久2年(1862年)に作られました。当時は、塩谷の浜の方にあったのですが、明治30年(1897年)に現在の場所に移ります。元々、小樽は北前船の行き来や、ニシン漁が盛んな場所でしたので、船の安全を祈願するために多くの方が訪れていたようです。徳源寺の本堂には仏様が、その隣の龍神堂には龍神様(神様)が祀られています。北前船の船主たちが奉納したものとして、船絵馬3点と福井の笏谷石(しゃくだにいし)で作られた狛犬などがあります。
吉田さん:北前船の船主たちにとって、一度で大きな利益を出せる「一攫千金のロマン」はありながらも、荒波を超えて航海をするリスクも背負っていました。1年をかけて航海をするわけですから、かつての船主たちの心の強さを感じますね。無事に航海ができたことへの感謝が、徳源寺にたくさんある寄贈品から伝わってきます。
【徳源寺】
【徳源寺】
| 所在地 | 北海道小樽市塩谷2-25-1 |
|---|---|
| アクセス | 函館本線塩谷駅から徒歩約13分 |
住吉神社(灯篭)
続いて高野さんが案内してくれたのが、小樽住吉神社。全国にある住吉神社は、海の神様を祀っており、北前船とも深い関係があります。小樽住吉神社では、北前船主が寄贈した鳥居や灯籠などを見ることができます。
高野さん:函館の「箱館八幡宮」が明治以降、小樽の発展に伴い、勧請奉祀を許され誕生したのが小樽住吉神社です。元はもっと海よりの場所にあったそうですが、明治14年に現在の場所に移りました。第一鳥居は、加賀市出身の北前船主 広海二三郎(ひろうみ みさぶろう)と大家七平(おおいえ しちべえ)が寄贈したもの。広海家は日本を代表する北前船主で、家系的にも戦国時代から昭和の後期まで、日本で一番長い期間海運に従事していました。住吉神社の玉垣や石灯籠も、北前船主たちが寄贈したものがあります。ここを訪れた際は、寄贈者の名前にも注目してみてください。
高野さん:こうした寺社仏閣への寄贈だけではなく、北前船主たちは地域に学校を作ったり道路を整備したりと、地域貢献・社会貢献にも力を入れていました。商人として「稼ぐ」側面に注目が集まりがちですが、地域への貢献も大切にしていたことをぜひ知っていただきたいです。
【小樽総鎮守 住吉神社】
【小樽総鎮守 住吉神社】
| 所在地 | 北海道小樽市住ノ江2-5-1 |
|---|---|
| アクセス | JR南小樽駅から徒歩8分 |
全国各地にある北前船の足跡
最後に、高野さんに全国にある北前船関連のおすすめスポットの一部を伺いました。
石川県加賀市
小樽に倉庫を建造した旧増田又右衛門家の石塀。越前産の笏谷石で覆われた石垣は圧巻。
高野さん:石川県加賀市は、小樽市の倉庫などを作った北前船主の出身地です。瀬越・橋立・塩谷の3つ有名な集落があり、「日本一の富豪村」とも呼ばれています。船主集落は、寄港地とはまた異なった雰囲気があります。豪壮な造りの船主邸宅をぜひ訪れてみてください。
新潟県佐渡市
画像提供:佐渡市
復元された原寸大の千石船。小木歴史民俗資料館に展示されている。
高野さん:佐渡市には、北前船を体感できる施設があります。佐渡国小木民俗博物館では、原寸大の北前船が展示されているんです。内部の見学もできるので、佐渡を訪れた際にはぜひ中に入って、北前船の船主たちがどのような空間で航海をしていたのかを体感してほしいですね。
岡山県倉敷市
旧荻野家母屋・鰊蔵(むかし下津井回船問屋)。岡山県倉敷市下津井地区にあり、ニシン粕を保管していた蔵は現在食事処となっている。
高野さん:北前船寄港地として栄えた岡山県倉敷市下津井地区にある、明治時代の回船問屋の建物を改装した資料館です。母屋など当時の商家の様子をうかがえるほか、北前船に関する資料を展示しており、往時の下津井港の繁栄ぶりを知ることができます。ニシン粕を保存していた蔵は現在食事処となっており、地元の魚介類を使った料理を楽しむことができます。
高野さんが紹介してくれた場所以外にも、日本全国に北前船の足跡が残っています。みなさんがお住まいの地域の近くに、北前船の構成文化財がないかぜひチェックしてみてください。
今回は、小樽から北前船の歴史を紐解きましたが、近くにある構成文化財から全国の北前船の軌跡を辿る旅を計画してみるのもおすすめです。
高野さんが紹介してくれた場所以外にも、日本全国に北前船の足跡が残っています。みなさんがお住まいの地域の近くに、北前船の構成文化財がないかぜひチェックしてみてください。
今回は、小樽から北前船の歴史を紐解きましたが、近くにある構成文化財から全国の北前船の軌跡を辿る旅を計画してみるのもおすすめです。
| 【本稿で紹介した構成文化財】 | ・旧北浜地区倉庫群(5件) ・昆布の手すき加工技術 ・船絵馬群(徳源寺龍神堂) ・住吉神社奉納物 ・旧荻野家母屋・鰊蔵(むかし下津井回船問屋、岡山県倉敷市) |
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